今日は、私の兄のことを聞いていただいてもいいでしょうか?
兄は、高校の山岳部に入部して以来、山に取り憑かれたようになり、やがて、冬山にも1人で何日間も入るようになりました。冬山で遭難しかけ、凍傷で入院したこともありました。家族からは兄の山行きは奇行にしか見えず、私は兄のことを、とんだ変人だ思っていました。
そんな兄も、奇跡的に結婚することができ、新居を長野県に構えました。まもなく女の子が産まれ、ようやく変人が普通の人になってくれたと家族としては安堵しました。
ところが、その矢先、兄は癌を患い、正にあっという間に急逝したのです。享年29歳、産まれた女の子は1歳でした。若くして亡くなるなら、山での事故だと思っていたのに、予想外の結末でした。
それから20年以上を経て、私が低山に行くようになると共に、文太郎様のことを知ることとなりました。畏れ多いことですが、その境遇が兄と相似しており、驚愕しました。
今は、山に入る度、そこにある木や草や岩から多くのことを与えてもらえます。その間は、生前は、まともな会話もできなかった兄を近くに感じることができるような気がします。山にいる間は、できるだけ山から享受できる恩恵を、他人との会話などで妨げられたくない、と思うことすらあります。
山は単独行に限りますね。文太郎様。